現実、そして幻想、そしてその相違。

これまでにも「赤黒ゼ」で書いたかもしれない。
でもどうしても強烈に印象に残っている、想いで深いエピソードがある。


(詳細は違ってるかも。)


週刊少年マガジンで以前連載されていた「哲也」という麻雀漫画があった。
その中に、「印南」という男がいた。

印南はポン中だった。
つまり、ヒロポン中毒。覚醒剤中毒だ。
ヒロポンが堂々と薬局で買えた時代の話。


印南はヒロポンを打ちながら、驚異的な集中力で麻雀に勝ち続けるが、
やはりそれはヒロポンの力であり、全財産を失ってしまう。


印南は最後の手として、カラス金に手を出してしまう。
カラス金とは、金を借りた後、夜が明けて、カラスがカアと鳴いたとたん
一割、あるいは三割の利子を取られてしまう高利貸しのこと。
(余談だが今では、トイチ・トサンならぬ、イチニジュウというのが存在するらしい)

印南はカラス金でシャブを再び手に入れるが、それが切れてしまえばただの人。
ただ負け続けるだけだった。


印南は最後の、いや、最期の手として、自らの命を賭けた麻雀勝負に挑んだ。

負けたら死ななければならない、勝負。


その勝負の最中でも、ヒロポンが切れてしまい、
カラス金の貸し主にヒロポンを借りるほどの有様だった。


それでもヒロポンが切れればただの人である印南は、負け続けた。


そして、最期のオーラス。麻雀。南四局。


よほど高得点の役満でも作らない限り、逆転は不可能。
死ぬことになる。


ヒロポンが切れた印南は、諦めなかった。


負けた瞬間に殺される麻雀。それでも、ある役を目指して、手を作り続けた。


そして、

そしてついに印南は宣言した。


「ロン……、純正九蓮宝燈、……役満だ」


純正九蓮宝燈という役が麻雀においてどれだけの驚異力を持つものかは
ググってもらえればわかると想う。

一生に一度でも挙がることができないほどの役。


その純正九蓮を、命を賭けた勝負の最期で、印南は宣言した。


その場にいた誰もが絶句した。


「……」


印南は沈黙したままだった。


やがて、誰かが、口を、開いた。


「こいつ…、死んでます」


印南は、口から血を流し、死んでいた。

覚醒剤中毒によるものだった。


「こいつ……、九蓮アガって死にやがった……」


その場の誰もが驚き、印南の力を恐れた最期だった。


だが。


だが、ある男が言った。

ある男が、印南の牌を見た。


「これ……、バラバラです」


九蓮宝燈は、1112345678999の牌を揃えなければ成立しない最高の役満


だが、印南は、全くのバラバラの牌を並べて、
それを、純正九連宝燈だと、「信じたまま」、死んでいった。


印南の中では、純正九連で、勝っていたのだった。


このエピソードが、俺は本当に大好き。